マグマ

よんでくれてありがとう

2022年前期に読んだもの見たもの

ネタバレあります。

特に注釈がなければ小説です。

 

INSCRYPTION(ゲーム)

 しかけ満載のローグライクカードゲーム。お正月の三ヶ日にINSCRYPTIONでうんうん頭をひねるところから2022年が始まった。のちに高難易度版のMODが追加されて、夏頃にはそっちもたくさんやった。
 全体的に、「ネタバレを踏む前にできてよかったなあ」と心底思った。

トランスヒューマンガンマ線バースト童話集 三方行成

 有名童話の要素をSFの設定に落とし込むのがうまく、読んでいて気持ちよかった。SFと童話のなめらかな融合は文体の側面でもあらわれていて、おとぎ話特有のあの語り口に笑わされる場面が何度もあった。
 「童話集」というだけあって本作は短編集で、シンデレラやかぐや姫をはじめとした様々な童話を元ネタにしたSF短編が収録されている。各エピソードは世界観を共有していて、特に最終章の『アリとキリギリス』ではこの短編集全体が「トランスヒューマン」が「ガンマ線バースト」にみまわれる「童話集」である必要性が最後の最後で一気に立ち上がってきて面白かった。

金閣寺 三島由紀夫

 金閣寺放火という実在の事件をもとに、犯人の視点で生い立ちから放火に至るまでを描いた小説。
 実際にあった事件で、犯人の内面をここまで想像して描いちゃっていいのか!?ということばかり考えていた。
 ほかには、もともと文体が美しいとされている三島由紀夫の小説のなかでも『金閣寺』は特にすばらしいとされているそうで、たしかになと思った。

日本SFの臨界点 石黒達昌 伴名練編

 架空の生物についての物語が論文や報告書の形式で語られるのがすごく好みに刺さった。

人間たちの話 柞刈湯葉

 表題作と『記念日』が特に面白かった。『記念日』みたいな温度感、大好き♪

ゲームの王国 小川哲

 現実と非現実が同居する世界観で、こういうのをマジックリアリズムというらしい。

 前後は省くが、チャーハンを棺桶に入れるシーンがとても面白かった。

無気力の心理学 波多野誼余夫・稲垣佳世子

 無気力な時期に図書館で借りて読んだ。自分がなぜ無気力か知りたかったからだ。

 モチベーションや自己効力感についていろいろな実験に基づいて論じられていて面白かった。学校教育やコーチングなど全体的に指導者側の視点で進み、自分の無気力の原因についてはあまりわからなかった。

地獄でなぜ悪い(映画) 園子温

 流血の映像を我慢しながら観た。

 後半、撮影シーンが始まってからのスピード感と熱狂が面白かった。最後の走るシーンの、映画の撮影に魅せられることのどうしようもなさが爆発したような表現もよかった。

 見た翌日にテレビをつけたら園子温のニュースが流れていた。

なぜ意識は存在しないのか 永井均

 なぜ意識が存在しないのか知りたかったため図書館で借りて読んだ。哲学書だけど分厚くないし、いけるかな、と思ったのだ。

 興味深く読んでいたが途中でギブアップしてしまった。考える余裕があるときにまたチャレンジしたい。

屍者の帝国 伊藤計劃×円城塔

 本来生命のないものに生命を吹き込む術をプログラミングとして解釈するやつが好きだ。たとえば『ダンジョン飯』のゴーレム回などは好きで、同様にこの本も刺さった。

ポストコロナのSF

 コロナ禍をテーマにしたSFアンソロジー
 全編面白かったのだけれど、特に印象に残ったのは『ドストピア』(天沢時生)と『オンライン福男』(柴田勝家)だった。
 私は笑いにめっぽう弱いのだ。(実際に読んでいただければわかるはずだ)

テスカトリポカ 佐藤究

 リアリティのある犯罪小説でありながら、事件の背後にはアステカ文明の神への血塗られた信仰がうごめいている、という二重の要素につねに引き込まれながら読んでいた。
 川崎の荒くれ者たちが犯罪組織に引き入れられるパートで、登場人物の地の文での呼称が組織でのコードネームに切り替わっていく表現があったのだが、かれらが巨大な暗計に巻き込まれていく様子のおどろおどろしさがよく伝わってきて面白かった。

十角館の殺人 綾辻行人

 たったひとつの文ですべてがひっくり返る系の名作ミステリー。その触れ込みに偽りはなくて、件の一文を読んだときには思わず膝を打つかと思った。
 犯人の体力がちょっとすごすぎやしないか、というひっかかりを残す真相だったけど、そこらへんは殺意でカバーしたといわれればそれまでのことでもある。

犬王(映画)

 歴史の闇に葬られた犬王という謎の能楽師が史実にいるらしく、どうせ記録が残っていないならロックスターみたいなことをしていたかもしれないじゃないかというアニメーション映画。
 中盤、友魚が橋の上で歌う犬王の歌がメロディの反復が多くてちょっと間延びを感じたのだが、実際の琵琶法師の節回しをモチーフにしているのかな?とも思った。
 ただ、最後の桜吹雪と無音のシーンを見たときには「ここを見られただけでも十分に満足だな」と思った。あとアヴちゃんのCVがよかった。

プラネタリウムの外側 早瀬耕

 計算機上でひとつの世界をシミュレーションできてしまうことの重さ、そしてこの世界もまた外側の世界のシミュレーションかもしれないという思考、のそれぞれに天球儀とプラネタリウムというモチーフを割り当てる感覚がとても綺麗だった。実は世界には無限に多層的に包み込む構造があって、基底の世界だと思っているここも玉ねぎの層のひとつでしかないというモデルだ。
 ところで作中では、有機素子ブレード内でシミュレーションされた世界の人物が、電子的記録への改竄を通じていわば我々の世界階層へ逆襲を行う描写があるのだが、前述の玉ねぎのモデルよりむしろこっちの見方のほうが興味深く感じた。というのも、仮想世界と現実世界が互いに干渉・改変しうるとする場合、プラネタリウムの外側は実は内側でもあった、という驚きがあるからだ。二つの世界はひとつの膜を隔てて互いに包み込みあっていて、つまりプラネタリウムの真ん中に穴をあけて高次元の指を突っ込めばプラネタリウムの外側と内側はぐりんとひっくりかえすことができる。さっきまで天球儀を眺めていた我々は、いつのまにかぐりんとプラネタリウムの内側に閉じ込められている。

零號琴 飛浩隆

 とにかく絢爛で壮大なSFで、緻密な世界観とめくるめく展開にずっとワクワクしていた。
 ハードカバーを図書館で借りて読んだけれど、文庫版の巻末にあった解説を読んだところ日本の戦後SFの歴史に対する批評としても読めるらしい。